8 月 2 日(水)・3 日(木)に浅草公会堂にて開催される尾上右近自主公演 第七回『研の會』の記者発表会が、6月6日(火)に行われた。
『研の會』は、歌舞伎俳優・尾上右近が2015年から取り組む自主公演で、これが七回目の開催となる。
未経験の名作にあえて挑戦するのも見どころのひとつで、今回は「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」と「京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)」に挑む。浅草での開催はこれが初。
発表会ではまず右近から「『研の會』も今年で7回目となりました。今回は浅草公会堂に劇場を移しての開催です。演目は、広い劇場になったらやりたいと思っていた古典演目『夏祭浪花鑑』『京鹿子娘道成寺』を選ばせていただきました。いずれも私にとって思い出もありますし、初役でもあり、自主公演でなければこんな大変なことはできないというような充実した内容となっています」
『夏祭浪花鑑』については、自身も子供の頃から馴染みがある演目だと言い、「自分の中でこの演目は、お役と俳優さんがパチパチとハマらないとできないようなものです。今回はありがたい出演者に恵まれました」と喜ぶ。
特に右近とは同世代で今回『研の會』初参加となる巳之助については、『研の會』の翌々日が歌舞伎座の初日という強行スケジュールで出演することに触れ、「歌舞伎界でこれから新しい景色を一緒に見ていこうということを誓っている仲間だからこそ頼めたことであり、引き受けていただけたと思っています。『夏祭』をやりたいと思う中のかなりのパーセンテージで、一寸徳兵衛・三河屋義平次の二役を巳之助さんにやってほしいという気持ちがありました。ご本人も面白がってくださって、歌舞伎座の公演とも掛け合って出演していただけることになり、うれしかったです」と明かした。
『道成寺』については、「女形舞踊の中でも最高峰と言われる舞踊作品です。私もこの作品には度々、所化(修行中の僧)のお役で何度も出させていただいて、舞台の脇に座って(今回右近が演じる)白拍子花子の踊りを見て勉強してきました。とにかく体力勝負のお役でもありますが、音羽屋にとりましても縁の深い演目でもありますので、大事に大事に初役の白拍子花子を務めたいと思っています」と意気込む。初めての浅草公演にも「浅草は、東京出身の僕にとって故郷が見つかったと思わせてくれた土地です。今回はその浅草の浅草公会堂での開催となり、キャパも広がって、客席数も増え、“新たな第一回”というつもりで挑ませていただきたいと思っています」と話した。
それぞれの稽古について、『夏祭』は「幸四郎お兄さんに教えていただいて、最終的には白鸚のおじさまにもご覧いただくというお願いをさせていただいています。お辰は中村京蔵さんが先代の雀右衛門のおじさまのお辰の型を覚えていらっしゃるので、直接うかがって勉強させていただきます」。同じく『道成寺』は「藤間勘十郎先生に見ていただきます。勘十郎先生はいろいろな舞台でご一緒させていただいて、年がら年中お世話になっている方です」。
記者発表会では特別版公演ポスターも披露。日本を代表する現代美術家・横尾忠則氏によるもので「普段、ポスターは自分のアイデアで製作しているのですが、今回は横尾忠則さんに直談判をして、特別につくっていただきました」。きっかけは今年6月に出版された『尾上右近アーティスト対談集 右近vs8人』(PARCO出版)での対談。原稿チェックで本文に横尾氏が「右近さん、今度なにか一緒にお仕事をしましょうね」という一文を付け加えているのに気づき、右近も「じゃあ僕からなにかオファーさせていただいた時は、絶対にお断りしないでくださいね」と加えたそう。「個人の公演で、横尾さんにポスターを作っていただきたいとお願いするのはなかなか勇気のいることだったのですが、このやりとりがあったのでお願いできました。ポスターを見たとき、横尾さんに自分の将来と今の自分を占っていただいたような感覚になりました。横尾忠則らしさ、僕らしさ、歌舞伎らしさ、現代らしさ、さまざまな“らしさ”が詰まったポスターを作っていただいたなと思います。一生の宝物です」
発表会ではサプライズで、横尾氏からのメッセージ(※全文は最後に)も。その中の「この『研の會』が続く限り、お手伝いさせて頂ければ嬉しいですね」という一文を聞いた右近はハッと驚き、笑顔に。「この自主公演は特にそれを感じる瞬間が詰まっていますが、人と関わるということが人生においての財産だと思います」と語った。
質疑応答では、『夏祭』で右近が団七九郎兵衛とお辰の二役を演じることについて記者から「十七代目中村勘三郎が浮かぶ」というコメントを受け、右近は「勘三郎おじさまは憧れの俳優さんでとても尊敬していますし、『夏祭』は僕も勘三郎おじさまの印象が深いです」と明かす。この二役をやりたかった理由は「どちらもやりたかったというのがあります。私は立役女形両方勉強させていただいていますし、今は立役のお役をいただくことも増えてきましたが、やはり女形に対する愛情、愛着というものもある。だから両方やらせていただきたいなと思いました」。
『道成寺』について「踊り切るだけでも大変」と言われるような作品であることを問われると、「自主公演は自己研鑽の場でもありますが、やはり心のどこかでは『これでどうだ!』というつもりでやりたいと思っています。踊り切るのが目標ではなく、大評判をとるのが目標なので、踊り切るのは当然だと思っています。体力は大変ですが、『大変なことを見てください』ということではないので、『夏祭』と『道成寺』それぞれきちんと評価していただけるような舞台をつくりたいです」。
【尾上右近よりコメント】
◎自身が楽しみにしていること。
やりたいことが詰まった公演なので、そのぶん体力、気力、集中力とあらゆる力が要求されるという恐怖感がありますが、恐怖感が伴う楽しみは僕が一番好きな楽しみでもあります。大好きな歌舞伎を存分にやれることが純粋に楽しみです。
◎お客様に楽しみにしていただきたいこと。
歌舞伎を通じて僕の気持ちがストレートに感じていただける公演になっているので、その気持ちが届くことが楽しみだし、楽しみにしていただきたいことです。
内容的にも、『夏祭』は、開催時期に合わせて夏のお祭りの夜における事件を扱った作品で、初心者でも伝わりやすいお芝居です。『道成寺』も、美しく舞踊を見せるということを、手放しに楽しんでいただける作品になっています。
今回は、話の筋をあまり気にせず観ていただける、そして楽しんでいただけることがコンセプトです。
◎それをコンセプトにした理由は?
歌舞伎を観るきっかけになりたいと思うことは常日頃からあり、その気持ちを一番カタチにして詰め込んでいるのがこの自主公演になります。僕がおもしろいと思う歌舞伎を楽しみながらやっている姿を観てくださったら間違いなく歌舞伎を好きになってもらえる、それを信じて取り組んでいる企画です。
これを観に来てくれたら歌舞伎を好きになる。そこは自信を持ってお届けしたいと思います。
【横尾忠則氏からのメッセージ】
尾上右近さんのライフワークの「研の會」のポスターを描かせて頂いて、大変光栄です。
ちょっと面白い作品が出来たと喜んでいます。
果たして右近さんが気に入って下さるかな。ちょっと心配です。
この「研の會」が続く限り、お手伝いさせて頂ければ嬉しいですね。
「研の會」拝見します。
また、いつでもフラッと遊びに来て下さい。待っています。
横尾忠則
オフィシャルライター:中川實穗
尾上右近自主公演 第七回「研の會」
一、 夏祭浪花鑑
二、 京鹿子娘道成寺
出演:尾上右近、坂東巳之助、中村米吉、羽鳥嘉人、尾上菊三呂、中村莟玉、中村種之助、中村鴈治郎ほか
日程:2023年8月2日(水)・3日(木)昼の部11:00開演/夜の部16:30開演(4公演)
場所:浅草公会堂